1985年、男女雇用機会均等法の制定により女性たちの社会進出は着実に増加している。雇用の機会は平等に与えられているにもかかわらず男女の賃金の差があるのはなぜだろう。 厚生労働省によれば、「新規学卒者の学歴別所定内給与は女性の大学卒で22万3900円、男性が22万6700円」(厚生労働省2021)と目立った差はない。しかし、就業年数が経つにつれ、多くの女性の賃金は男性より少ないのが現実だ。この問題について日本における性別的役割への根強い考え方の観点から論じていく。
先月21日、世界経済フォーラム[i]は男女格差の現状を評価したジェンダーギャップ指数2023年版の報告書[ii]を発表した。日本のジェンダーギャップ指数は146か国中125位となり、昨年の116位から9ランクもダウンしたことになる。世界的にみても日本はジェンダーギャップによる不平等や格差があるのは事実である。日本の女性の政治参加や管理職が少ない理由のひとつとしては、戦後の日本の家制度からくる男は仕事、女は家庭といった考えや、家庭の中にも根強く残る女性側の性別的役割の自認も大きく影響しているのではないだろうか。
女性が仕事を選ぶとき、家事や子育てとの両立を考え、使用者も女性は家事を担うだろうという根底にある考え方が女性の働き口を狭めている。竹信によれば「家事を担っているために短時間のパートでしか働けない女性たちの数は増え続け、実際には家事は担っていなくても女性は家事を担うはずだからとパートしか働き口がない女性も増えていった」と示している(竹信2013)。家事を担っているのは女性という根強い意識が男女の役職の溝を埋められないのである。
厚生労働省発表の令和3年の一般労働者の男女間賃金格差を見てみると、「所定内給与額は女性が25万3600円、男性は33万7200円となっており、男女間の賃金格差は男性を100とした場合は75.2と前年74.3を上回った」(厚生労働省2021)とある。さらに「この格差について役職の違いによる影響が大きいが9.8と最も大きく、勤続年数の違いによる影響は4.1」(厚生労働省2021)と示され、女性は結婚・出産を機に一時的に離職し昇格のタイミングを逃しているということが分かる。内閣府は2003年6月、「男女共同参画社会の実現に向け、社会のあらゆる分野において2020年までに女性の管理職に値する地位の割合が30%程度になるよう期待する」している(内閣府2003)としているが、企業側の積極的なアクションなしにしては難しい。女性だからパートでいいだろう、家事に時間を取られるはずだから大きな仕事は任せられないというような性別的役割における考えをなくしていかなければならないのである。
女性の管理職を増やす管理職推進の事例として、広島に本社があるマツダ株式会社(以下、マツダ)の取り組みがある。2020年までに女性幹部社員数を2013年比の3倍にするとの目標を掲げ、2018年には2倍以上にまで促進させた。マツダでは幹部登用候補となる女性社員の個別育成計画の実施や積極的なジョブローテーションなどで性別的差別が起こらないよう様々な職種にチャレンジする機会を与え、女性管理者実現につなげている。女性側も女性だからできないという自認から、新しい仕事への挑戦の意思も芽生えてくる。
これまで女性が選べる職種は一般職がほとんどだった。しかし、性別的役割の考え方による決めつけや思い込みにとどまることなく、多様性のある働き方へ企業側による仕組みの開発の努力が肝となるだろう。
参考文献
厚生労働省(2021)令和3年働く女性の状況p.29
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/dl/21-01.pdf(最終閲覧日:2023年7月16日)
内閣府(2003)男女共同参画局、主な施策、ポジティブ・アクションhttps://www.gender.go.jp/policy/positive_act/index.html(最終閲覧日:2023年7月16日)
竹信三恵子(2021)『家事ハラスメント 生きづらさの根にあるもの』岩波書店p.viii
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