2023年版ジェンダーギャップ指数[i]によると、日本は146か国中125位となり、昨年の116位から9ランクもダウンした。特に格差があるのは政治の分野で日本は138位となっている。過去に女性首相がひとりもいないことや、民間企業でも管理職に女性が少ないなども理由のひとつとなっている。ではなぜ女性の管理職が少ないのだろうか。...
日本は今、少子高齢化が進んでいる。少子化問題については、晩婚化や非正規雇用、子どもを産み育てにくい環境などいくつかの要因があげられている。本稿では子どもを産み育てにくい環境のうち男性の育児休業取得率の低さについて論じる。なぜなら男性の育児休業の取得により家庭内での育児への参加の時間が増え、女性の育児の負担が減ることで子どもを産み育てやすい環境が整うからである。特に共働き世帯での育児はどうしても女性に負担がかかるため、男性も育児休業を取得することで女性の育児の負担をできるだけ少なくすることが期待できるのである。  厚生労働省は中小企業に向けて、「男女とも仕事と育児を両立できるように産後パパ育休制度の創設や、雇用環境整備、個別の周知、意向確認の措置の義務化などの改正」(厚生労働省2022)を示した。法改正は今後3段階で行われ、育児休業取得や産後パパ育休の申し出を円滑に進めるために掲げた企業側に対する措置である。企業側の育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や、労働者に対して個別の周知や取得意思の確認をおこなうことで育児休業取得推進を図ることが目的とされている。  男性の育児休業取得についてはまだ取得率は低く、「取得しない理由について、自分しかできない仕事や担当している仕事があったからとの理由が2割を超えている」(厚生労働省2021)との調査結果がある。このことからも自分自身だけの問題として捉えられていることが大きな要因といえよう。今回の法改正により企業側が取得を促すことで、自分自身の問題だけではなく男性側に対しては家庭に目を向けることにより女性をフォローするきっかけとなる制度といえよう。男性側の意識の変化も期待したい。  たとえば、尾野(2022)によれば「男性の育児休業に関する情報を会社として幅広く提供することが、従業員の意識変化やワークライフバランスの実現につながる」(p.7)と述べている。意識変化やワークバランスが整うことで心身ともに健康になり、仕事においても効率よく作業が進むことが期待できるのである。そのようなことから育児休業取得により女性の育児負担が減るばかりか男性への利点も多いといえる。  しかし、育児休業取得について実態はというと、厚生労働省の調査によれば「育児休業制度の利用を希望していたができなかった者の割合は約4割であり、企業から男性への取得促進の働きかけは6割以上がなかった」(厚生労働省2021)と示されている。特に上司からの取得への働きかけは男性社員にとっては大きな決断のきっかけとなるのだが、「上司から個別の面談を実施は9.8%であり、1割にも満たない」ということがわかった(厚生労働省2021)。今回の法改正により企業側も自社の制度を整えていくこともさることながら、上司が制度の理解を深めていくことが重要となってくる。  福島県では、知事である上司自らがイクボス面談をおこない、職員に対して育児休業の取得を促している事例がある。イクボスとは「職場でともに働く部下・スタッフのワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も上げつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司を指す」(福島県 2022)と示されている。知事自らのイクボス面談は、「育児や介護など家庭生活に関わる必要のある職員に対して育児参加等の意識付けを図るとともに、所属上司に職場の協力を促すことで、育児や介護に関する休暇や休業を取得しやすい環境づくりを進めるために実施する」(福島県 2021)とも示されている。取り組みの成果は、「福島県庁での男性職員の育児休業取得率は2021年には59.1%となり、2020年度の30.4%から28.7ポイント増え、2025年までには100%という取得目標について男性職員に取得を促している」(福島民報 2022)と示され、地域の話題として注目されていることがうかがえる。100%育児休業取得について福島県では、「職員向け育児情報ポータルサイト男の育休NET」(福島県2021)を立ち上げることで職員への情報提供を行い、男性の育児休業取得に向けて積極的な働きかけを促している。地域全体が男性の育児休業取得に向けた制度の見直しや推進に取り組んでいることがよくわかる事例である。企業や地域が育児休業についてどんな取り組みをしているのかは、「企業や地域のイクメン・イクボス推進策イクメンプロジェクトサイト」(厚生労働省2022)を参考にするとよいだろう。  それに向けて企業側が国の制度とは別にその業種にあったそれぞれの育児休業の仕組みをつくることが重要となってくる。そのためには企業側が管理職に対して制度の理解を深めるための勉強会を実施することが必要である。具体的には、管理職となる上司が理解を深めることで、妊娠・出産の報告をした従業員に対し個別の面談でワークライフバランスの計画を一緒に立てることが出来る。計画では実際の取得日をいつからいつまでにするかのスケジュールやテレワークの際のネット環境の確認、取引先対応などの実務面での不安を取り除くことも重要である。私生活に仕事が食い込まないような配慮をする提案も必要だろう。  それでもまだ育児休業を取得することで職場から取り残されるのではないかという本人の不安も否めない。企業側が育児休業中の職場での新たなキャリアステージを用意することで、仕事のキャリアを心配せずに安心して育児休業を取得することができる。育児休業取得の先輩たちの体験談を聞く会や横のつながりを持つことも不安が解消されるきっかけとなる。育児休業取得は自分には関係がないと思っている従業員に対しては、取得の理解が進められるように従業員全員が見ることができる社内サイトや掲示板にポスター貼ることで全員に周知させるような企業側の努力も必要である。  取得本人の育児休業中の業務に関しては、企業側がたとえばパソコン一つでできる職種であればテレワーク制、保育所の送り迎えなどに対応するにはフレックス制を導入することが望ましい。仕事の内容を共有できるように日頃から各自でマニュアルを作成しておくなど、自分しかできない仕事だから休めないということがないように自身の環境も整えなくてはならない。  さて、育児休業を申し出た従業員の態度についてはどうだろうか。育児休業中は育児に対しての積極的な学習が求められ、子育てについてはパートナーと話し合い、ともに勉強会に参加したりなどをして有意義に過ごすことが望まれる。特に共働き世帯についてはパートナーとお互いの育児休業取得の計画をたて、どちらの負担にもならないように進めていくことが重要である。  日本の少子化については、男性の育児休業取得だけでは改善できない問題もある。育児にかかる費用の問題、住居の問題、育児中の孤独な親への地域フォローなど多岐にわたるが、本稿ではその問題には触れず別の機会に論ずることとする。男性側の育児休業取得推進で女性の負担を和らげ、もっと子育てに積極的に参加できる時間を確保するために企業側が取得を推進し、第2子、第3子への可能性を高めなければ日本の少子化問題の解決にはならない。くり返しになるが男性の育児休業取得により育児への参加時間が増え、女性の育児負担が減少することで今後の日本の少子化問題を改善していけると考えられるのである。  休業中は育児イベントなどに参加して孤立しないようにしていくとよいだろう。なぜなら育児は楽しいことばかりではないからだ。悩みの連続である。育児という経験は育児休業を取得した者の特権といえよう。企業側も育児休業取得中にキャリアがストップしたと考えず、業務では経験できないことを経験している素晴らしい期間だととらえるとよいだろう。育児休業取得は人間として成長できる経験を積む絶好のチャンスなのである。 参考文献一覧 福島県ホームページ(2021)「知事が第13回イクボス面談を実施しました」 https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01125c/ikubosumendan13.html(最終閲覧日:2022年10月29日) 福島民報(2021)「福島県の男性職員の育休取得率59.1% 2021年度初の過半数に」 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022072198973(最終閲覧日:2022年10月23日) 厚生労働省(2021)「育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~」pp.8-13 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf(最終閲覧日:2022年8月20日) 厚生労働省(2022)「イクメンプロジェクト公式サイト」 https://ikumen-project.mhlw.go.jp/(最終閲覧日:10月29日) 厚生労働省(2021)「令和2年度 仕事と育児等の両⽴に関する 実態把握のための調査研究事業 労働者調査 結果の概要」p.8 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000791052.pdf(最終閲覧日:2022年8月20日) 厚生労働省(2022)「リーフレット育児・介護休業法改正のポイントのご案内」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf(最終閲覧日:10月29日) 尾野裕美(2022)「企業における男性の育児休業取得推進策とその成果に関する研究」『明星大学心理学研究紀要』第40号pp.1-9
戦後、家制度が廃止となったにも関わらず家や結婚にまつわる刷り込まれた感覚は今もなお消えないでいる。例えば、女性は結婚したら男性の家に入るということは当たり前であり、逆に女性の家に入る男性に対しては普通の結婚ではないという感覚を持つ人は少なくない。実際に結婚して男性側の戸籍に入る女性の割合は、厚生労働省の統計によると昭和50年では98.8%、平成27年でも96.0%となっている(厚生労働省2016)。これは何を意味するのか。意図的とは別に無意識のうちに結婚とは男性に家に入ることと思っている女性が多いということを指しているのではないか。その問いに着目し本稿では廃止されたにもかかわらず今なお根強く残っている家制度の中で刷り込まれたジェンダー意識について考察する。  家制度とは家を制度として制定した明治民法のひとつだ。国家に天皇が在るように家にも家長をという考え方のもと制度として浸透してきた。朝日新聞デジタルの記事によると、「制度の中で妻は無能力者として位置づけられ何をするにも家長である夫の許可がないと働きにもでられなかった」と記されている(朝日新聞デジタル2021)。この位置づけに当てはまる事例として筆者の友人が抱く家問題がある。友人である60代の彼女は働きに出たいという本人の希望とは裏腹に夫の許可がないと働きに出られない。彼女の夫には彼女が働きに出ることは一家の長として恥だとの考えが根強くあったのである。定年を迎えた夫の収入だけでは老後の不安が残るという彼女にとって収入減にもかかわらず夫の了承が得られず働きに出られないという矛盾を抱えていた。社会全体では女性の社会進出や管理職推進などが掲げられている傍ら家の中では今もなお家制度の名残があるのである。  明治民法では無能力者とされた家庭内での女性の役割ではあるが、上野(2011)によれば、「女を女役割にしばりつけているのは、夫や子どもではなく自分自身だ[1]」とも記している。限りある資金のなかでおかずを何品作るか、それに固執しているのは女性のほうであるとの見解だ(p.192)。女性も自分の役割を自分自身に刷り込んでいるといえよう。このように社会的・文化的に作られた性別的役割の概念をジェンダーといい、男性はこうあるべき、女性はこうあるべきという性差による役割分担は、本来人間としては性差によって決めつけられるものではないのである。  もうひとつ事例をあげよう。友人の長男であるご子息が結婚された。ご子息は婿として女性側の戸籍に入ったという。友人は婿という立場を非常に不満に思い、長男と疎遠になっているという。この場合、男だから嫁を貰うのが当然という家制度に依存したジェンダー感に母親自身がとらわれていることが問題なのである。ご子息をひとりの人間として幸せを願うことを忘れてはいないだろうかと疑問が残る。 この2例からみても女性側がジェンダーという性別的役割の意識を手放していないことも論点になってくる。夫が許さないから働けない、長男だから婿はありえないなど刷り込まれた視点を変えない限り家の中のジェンダーはなくならないのである。  さて、家制度が廃止されて76年。男女ともに都合がよかった家制度の消えない意識の名残がジェンダー格差に反映している現代、個々の幸せとは何かを問うきっかけとなるのは家の中となるだろう。家制度の刷り込みによる意識がなかなか消えないのは、その制度の仕組みが都合よかったからでもあり、制度がなくなってもその制度の内容でうまく調整できている人もいる。問題は家制度により刷り込まれた名残による性別的役割で決めつけられた生きづらさをどう改善していくか、それがジェンダー格差を生まないポイントとなりそうだ。 参考文献 上野千鶴子『おひとりさまの老後』文藝春秋2023年、p192 厚生労働省(2016)人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」の概況 01.pdf (mhlw.go.jp)(2023年4月29日閲覧) [1] 女性が家庭内の役割として家事労働があるならば、その役割を全うしたいという女性側の強い欲望も根強いのではないかという視点。
1985年、男女雇用機会均等法の制定により女性たちの社会進出は着実に増加している。雇用の機会は平等に与えられているにもかかわらず男女の賃金の差があるのはなぜだろう。   厚生労働省によれば、「新規学卒者の学歴別所定内給与は女性の大学卒で22万3900円、男性が22万6700円」(厚生労働省2021)と目立った差はない。しかし、就業年数が経つにつれ、多くの女性の賃金は男性より少ないのが現実だ。この問題について日本における性別的役割への根強い考え方の観点から論じていく。  先月21日、世界経済フォーラム[i]は男女格差の現状を評価したジェンダーギャップ指数2023年版の報告書[ii]を発表した。日本のジェンダーギャップ指数は146か国中125位となり、昨年の116位から9ランクもダウンしたことになる。世界的にみても日本はジェンダーギャップによる不平等や格差があるのは事実である。日本の女性の政治参加や管理職が少ない理由のひとつとしては、戦後の日本の家制度からくる男は仕事、女は家庭といった考えや、家庭の中にも根強く残る女性側の性別的役割の自認も大きく影響しているのではないだろうか。  女性が仕事を選ぶとき、家事や子育てとの両立を考え、使用者も女性は家事を担うだろうという根底にある考え方が女性の働き口を狭めている。竹信によれば「家事を担っているために短時間のパートでしか働けない女性たちの数は増え続け、実際には家事は担っていなくても女性は家事を担うはずだからとパートしか働き口がない女性も増えていった」と示している(竹信2013)。家事を担っているのは女性という根強い意識が男女の役職の溝を埋められないのである。  厚生労働省発表の令和3年の一般労働者の男女間賃金格差を見てみると、「所定内給与額は女性が25万3600円、男性は33万7200円となっており、男女間の賃金格差は男性を100とした場合は75.2と前年74.3を上回った」(厚生労働省2021)とある。さらに「この格差について役職の違いによる影響が大きいが9.8と最も大きく、勤続年数の違いによる影響は4.1」(厚生労働省2021)と示され、女性は結婚・出産を機に一時的に離職し昇格のタイミングを逃しているということが分かる。内閣府は2003年6月、「男女共同参画社会の実現に向け、社会のあらゆる分野において2020年までに女性の管理職に値する地位の割合が30%程度になるよう期待する」している(内閣府2003)としているが、企業側の積極的なアクションなしにしては難しい。女性だからパートでいいだろう、家事に時間を取られるはずだから大きな仕事は任せられないというような性別的役割における考えをなくしていかなければならないのである。  女性の管理職を増やす管理職推進の事例として、広島に本社があるマツダ株式会社(以下、マツダ)の取り組みがある。2020年までに女性幹部社員数を2013年比の3倍にするとの目標を掲げ、2018年には2倍以上にまで促進させた。マツダでは幹部登用候補となる女性社員の個別育成計画の実施や積極的なジョブローテーションなどで性別的差別が起こらないよう様々な職種にチャレンジする機会を与え、女性管理者実現につなげている。女性側も女性だからできないという自認から、新しい仕事への挑戦の意思も芽生えてくる。  これまで女性が選べる職種は一般職がほとんどだった。しかし、性別的役割の考え方による決めつけや思い込みにとどまることなく、多様性のある働き方へ企業側による仕組みの開発の努力が肝となるだろう。 参考文献 厚生労働省(2021)令和3年働く女性の状況p.29  https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/dl/21-01.pdf(最終閲覧日:2023年7月16日) 内閣府(2003)男女共同参画局、主な施策、ポジティブ・アクションhttps://www.gender.go.jp/policy/positive_act/index.html(最終閲覧日:2023年7月16日) 竹信三恵子(2021)『家事ハラスメント 生きづらさの根にあるもの』岩波書店p.viii [i] 世界情勢の課題の改善に取り組むことを目的とした国際機関。1971年に経済学者クラウス・シュワブにより設立された非営利財団である。 [ii] 世界各国の男女の平等度についてデータを基にして算出し、順位を付けてわかりやすく可視化したものをジェンダーギャップ指数とし表している。2023年度の報告書は6月21日に公開された。
近年、女性が仕事を持つということに関しては、男は仕事、女は家庭といったジェンダー意識は変わりつつある。内閣府の調査によれば「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきに対して賛成が40.6%、反対が54.3%」と過半数を超えた(2016...