アカデミックライティング~少子化問題について(武蔵野大学通信教育学部科目レポート)

日本は今、少子高齢化が進んでいる。少子化問題については、晩婚化や非正規雇用、子どもを産み育てにくい環境などいくつかの要因があげられている。本稿では子どもを産み育てにくい環境のうち男性の育児休業取得率の低さについて論じる。なぜなら男性の育児休業の取得により家庭内での育児への参加の時間が増え、女性の育児の負担が減ることで子どもを産み育てやすい環境が整うからである。特に共働き世帯での育児はどうしても女性に負担がかかるため、男性も育児休業を取得することで女性の育児の負担をできるだけ少なくすることが期待できるのである。  厚生労働省は中小企業に向けて、「男女とも仕事と育児を両立できるように産後パパ育休制度の創設や、雇用環境整備、個別の周知、意向確認の措置の義務化などの改正」(厚生労働省2022)を示した。法改正は今後3段階で行われ、育児休業取得や産後パパ育休の申し出を円滑に進めるために掲げた企業側に対する措置である。企業側の育児休業を取得しやすい雇用環境の整備や、労働者に対して個別の周知や取得意思の確認をおこなうことで育児休業取得推進を図ることが目的とされている。  男性の育児休業取得についてはまだ取得率は低く、「取得しない理由について、自分しかできない仕事や担当している仕事があったからとの理由が2割を超えている」(厚生労働省2021)との調査結果がある。このことからも自分自身だけの問題として捉えられていることが大きな要因といえよう。今回の法改正により企業側が取得を促すことで、自分自身の問題だけではなく男性側に対しては家庭に目を向けることにより女性をフォローするきっかけとなる制度といえよう。男性側の意識の変化も期待したい。  たとえば、尾野(2022)によれば「男性の育児休業に関する情報を会社として幅広く提供することが、従業員の意識変化やワークライフバランスの実現につながる」(p.7)と述べている。意識変化やワークバランスが整うことで心身ともに健康になり、仕事においても効率よく作業が進むことが期待できるのである。そのようなことから育児休業取得により女性の育児負担が減るばかりか男性への利点も多いといえる。  しかし、育児休業取得について実態はというと、厚生労働省の調査によれば「育児休業制度の利用を希望していたができなかった者の割合は約4割であり、企業から男性への取得促進の働きかけは6割以上がなかった」(厚生労働省2021)と示されている。特に上司からの取得への働きかけは男性社員にとっては大きな決断のきっかけとなるのだが、「上司から個別の面談を実施は9.8%であり、1割にも満たない」ということがわかった(厚生労働省2021)。今回の法改正により企業側も自社の制度を整えていくこともさることながら、上司が制度の理解を深めていくことが重要となってくる。  福島県では、知事である上司自らがイクボス面談をおこない、職員に対して育児休業の取得を促している事例がある。イクボスとは「職場でともに働く部下・スタッフのワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も上げつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司を指す」(福島県 2022)と示されている。知事自らのイクボス面談は、「育児や介護など家庭生活に関わる必要のある職員に対して育児参加等の意識付けを図るとともに、所属上司に職場の協力を促すことで、育児や介護に関する休暇や休業を取得しやすい環境づくりを進めるために実施する」(福島県 2021)とも示されている。取り組みの成果は、「福島県庁での男性職員の育児休業取得率は2021年には59.1%となり、2020年度の30.4%から28.7ポイント増え、2025年までには100%という取得目標について男性職員に取得を促している」(福島民報 2022)と示され、地域の話題として注目されていることがうかがえる。100%育児休業取得について福島県では、「職員向け育児情報ポータルサイト男の育休NET」(福島県2021)を立ち上げることで職員への情報提供を行い、男性の育児休業取得に向けて積極的な働きかけを促している。地域全体が男性の育児休業取得に向けた制度の見直しや推進に取り組んでいることがよくわかる事例である。企業や地域が育児休業についてどんな取り組みをしているのかは、「企業や地域のイクメン・イクボス推進策イクメンプロジェクトサイト」(厚生労働省2022)を参考にするとよいだろう。  それに向けて企業側が国の制度とは別にその業種にあったそれぞれの育児休業の仕組みをつくることが重要となってくる。そのためには企業側が管理職に対して制度の理解を深めるための勉強会を実施することが必要である。具体的には、管理職となる上司が理解を深めることで、妊娠・出産の報告をした従業員に対し個別の面談でワークライフバランスの計画を一緒に立てることが出来る。計画では実際の取得日をいつからいつまでにするかのスケジュールやテレワークの際のネット環境の確認、取引先対応などの実務面での不安を取り除くことも重要である。私生活に仕事が食い込まないような配慮をする提案も必要だろう。  それでもまだ育児休業を取得することで職場から取り残されるのではないかという本人の不安も否めない。企業側が育児休業中の職場での新たなキャリアステージを用意することで、仕事のキャリアを心配せずに安心して育児休業を取得することができる。育児休業取得の先輩たちの体験談を聞く会や横のつながりを持つことも不安が解消されるきっかけとなる。育児休業取得は自分には関係がないと思っている従業員に対しては、取得の理解が進められるように従業員全員が見ることができる社内サイトや掲示板にポスター貼ることで全員に周知させるような企業側の努力も必要である。  取得本人の育児休業中の業務に関しては、企業側がたとえばパソコン一つでできる職種であればテレワーク制、保育所の送り迎えなどに対応するにはフレックス制を導入することが望ましい。仕事の内容を共有できるように日頃から各自でマニュアルを作成しておくなど、自分しかできない仕事だから休めないということがないように自身の環境も整えなくてはならない。  さて、育児休業を申し出た従業員の態度についてはどうだろうか。育児休業中は育児に対しての積極的な学習が求められ、子育てについてはパートナーと話し合い、ともに勉強会に参加したりなどをして有意義に過ごすことが望まれる。特に共働き世帯についてはパートナーとお互いの育児休業取得の計画をたて、どちらの負担にもならないように進めていくことが重要である。  日本の少子化については、男性の育児休業取得だけでは改善できない問題もある。育児にかかる費用の問題、住居の問題、育児中の孤独な親への地域フォローなど多岐にわたるが、本稿ではその問題には触れず別の機会に論ずることとする。男性側の育児休業取得推進で女性の負担を和らげ、もっと子育てに積極的に参加できる時間を確保するために企業側が取得を推進し、第2子、第3子への可能性を高めなければ日本の少子化問題の解決にはならない。くり返しになるが男性の育児休業取得により育児への参加時間が増え、女性の育児負担が減少することで今後の日本の少子化問題を改善していけると考えられるのである。  休業中は育児イベントなどに参加して孤立しないようにしていくとよいだろう。なぜなら育児は楽しいことばかりではないからだ。悩みの連続である。育児という経験は育児休業を取得した者の特権といえよう。企業側も育児休業取得中にキャリアがストップしたと考えず、業務では経験できないことを経験している素晴らしい期間だととらえるとよいだろう。育児休業取得は人間として成長できる経験を積む絶好のチャンスなのである。 参考文献一覧 福島県ホームページ(2021)「知事が第13回イクボス面談を実施しました」 https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/01125c/ikubosumendan13.html(最終閲覧日:2022年10月29日) 福島民報(2021)「福島県の男性職員の育休取得率59.1% 2021年度初の過半数に」 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022072198973(最終閲覧日:2022年10月23日) 厚生労働省(2021)「育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~」pp.8-13 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf(最終閲覧日:2022年8月20日) 厚生労働省(2022)「イクメンプロジェクト公式サイト」 https://ikumen-project.mhlw.go.jp/(最終閲覧日:10月29日) 厚生労働省(2021)「令和2年度 仕事と育児等の両⽴に関する 実態把握のための調査研究事業 労働者調査 結果の概要」p.8 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000791052.pdf(最終閲覧日:2022年8月20日) 厚生労働省(2022)「リーフレット育児・介護休業法改正のポイントのご案内」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf(最終閲覧日:10月29日) 尾野裕美(2022)「企業における男性の育児休業取得推進策とその成果に関する研究」『明星大学心理学研究紀要』第40号pp.1-9