近年、女性が仕事を持つということに関しては、男は仕事、女は家庭といったジェンダー意識は変わりつつある。内閣府の調査によれば「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきに対して賛成が40.6%、反対が54.3%」と過半数を超えた(2016 内閣府)。男女でみると賛成が男性44.7%、女性が37.0%と意識の違いには差がある。さらに年齢別でみると70歳以上では賛成が48.3%と高くなっている。これは、男は仕事、女は家庭という戦後の日本の社会的に植え付けられたジェンダー概念が今もなお根強く残っていることを意味し、これについて本稿では現代の女性の労働について考察する。
固定的な性別的役割の考え方は戦後の高度経済成長期の日本の経済を支えてきた。会社員として男性が外に働きに出ることが前提であり女性が外に働きに出るということに対しては否定的な社会の目があった。
厚生労働省によれば入職者に占めるパートタイム労働者の割合は20~24歳では男女ともに30%前後であり、一番開きがあるのは35~39歳で、女性63.2%、男性13.2%となっている(厚生労働省 2022)。新卒の20~24歳の女性のパートタイム労働者の割合は同年代の男性とさほど変わりはないのだが結婚を機に正規雇用を辞め時間の融通がきくパートタイム労働にライフコース[i]を変更していることが読み取れる。このように結婚や育児により女性がいったん仕事を辞め子育てが一段落した後に再就職するという傾向を示しているのが女性のM字型労働である。内閣府によれば1980年では20代後半で谷となりくっきりとM字型曲線を示している(内閣府 2020)。2020年では緩やかながらもまだM字型曲線を示しているということはこれまでの日本の慣例であった男は仕事、女は家庭の考え方がまだ根強く残っていることを表している。
M字型曲線の理由は次のとおりである。子育てをしながら正社員の仕事を続けるのは精神的にも体力的にも無理がある。女性が家事育児に専念している時期がM字の谷間となっており、子育てが一段落し再就職をするという女性特有の就業形態なのである。本当は正社員として働きたいが家事育児を引き受けることでパートタイム労働を選ばざる負えない状況なのである。竹信によれば「家事を正面から見つめ直す動きは盛り上がらず、女性は家事を担うはずだからとパートしか働き口がない女性が増えた」と記している(竹信 2021:viii)。さらに竹信は「安くて簡単に打ち切れる働き方は経営者から便利がられ契約社員や派遣労働といった形に変わった」(竹信 2021:viii)とも指摘し女性の雇用募集にパートタイムが多いことを雇用側の利点でもあるとの見方を強めている。
女性の家事育児負担軽減をふまえ厚生労働省は中小企業に向けて、「男女とも仕事と育児を両立できるように産後パパ育休制度の創設や、雇用環境整備、個別の周知、意向確認の措置の義務化などの改正」(厚生労働省2022)を示した。職場からの男性への育児休暇取得の働きかけで休暇も取りやすくなる。これは家事育児のワンオペ[ii]による女性の負担軽減や社会復帰にも大きく影響する。育児だけではない。介護の問題も出てくる。家族で介護をしなくてはならない場合、男は仕事、女は家庭という性別役割分業意識では当然女性に負荷がかかる。男性側も家庭に目を向け、生きていく営みに重きを置くことが今後の高齢化社会では重要となってくるであろう。
これまで男女の性別役割分業の考え方による女性のパートタイム労働を選択せざるをえない状況を論点に考察した。しかしパートタイム労働のほうが都合がよいという人たちがいるのも事実である。要は男女の性差なく個人が希望する働き方の選択ができる社会が望ましい。男は仕事、女は家庭という概念を取り払い就労の多様性に対応できる社会の構築が求められている。
参考文献
厚生労働省(2021)「育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~」pp.8-13
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf(最終閲覧日:2023年5月13日)
厚生労働省(2022)「令和3年雇用動向調査結果の概況」P.14
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/22-2/dl/gaikyou.pdf(最終閲覧日:2023年5月14日)
竹信三恵子(2021)『家事ハラスメント 生きづらさの根にあるもの』岩波書店内閣府(2020) 内閣府(2020)「女性の年齢階級別労働力率の推移」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-04.html
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